ぼくの願い事 Side story

朝になって ねこは100万回もなきました
朝になって夜になってある日のお昼にねこはなきやみました

ねこは 白いねこのとなりで しずかにうごかなくなりました
ねこは もう けっして 生きかえりませんでした。

(100万回生きたねこ)




ぼくの願いごとAS







「あ」

本屋でふと目に入った絵本に、足を止めた。

しろいうさぎとくろいうさぎ と書かれた文字。2匹のうさぎが愛らしく書かれた表紙。

古い記憶が揺り起こされた


「どうした?薪」
「これ………」
そっとそれを手に取り、たんぽぽを耳に飾ろうとしているうさぎを撫でた。

「ああ、それ」

鈴木はとくに訝るでもなく、なつかしいなーと僕の手元を覗き込んできた。

「………知っているのか?」
「ああ、うん。妹が小さいころそれ好きでさ〜。何度も読まされたね。女の子ってこういうのが好きだよな」
「こういうの?」
「いつまでも幸せに暮らしましたーみたいな?こう……童話的な?ハッピーエンドってやつ?」
「ああ……」
「結局うさぎが結婚するだけの話だもんな。原題もThe rabbits' weddingだし。」
「うん……」

ただじっと表紙のうさぎを見つめる僕の様子に、鈴木は眉を少しひそめた。

「どうした?」
「これ、小さいころ母が読んでくれたんだ。」
「へえ。やっぱ薪ママもこういうの好きだったのか」
多分、つとめて明るく言う鈴木に、僕は続けた。
「……かもしれない。でも、不思議だったんだ。彼女は、これを読んで途中で泣いてしまったんだ」
「……泣いた?」
「うん」
「なんで?泣くようなとこあったっけ?」

鈴木が僕の手から絵本をとってペラペラとめくるが、もちろんそんなページはない。鈴木がいうようにうさぎが結婚するだけの、幸せな話だ。
「だから、驚いてよく覚えている」
「へえ……」

そっと僕に戻して、おどけるように「薪ママ、初恋でも思い出しちゃったのかな」と言う。
僕は鈴木を見上げた。

鈴木は僕の傷に触れてしまいそうな時、わざと明るくふざけたように振舞ってくれる。

きっとあまり深刻になってしまわないように。

彼のそんな明るく柔らかい優しさは、いつもすこし眩しい。

「……そうなのかな」
「まあ、人生いろいろあるさ」
「そういうほど人生経験を積んでいるのか、鈴木は」
そう切り返してやると、失礼だなーつよしくんは!と僕の頭をこづいた。

母は、うさぎが一緒にいたいと願うところで声をつまらせて泣いてしまったのだ。
僕はとても驚いてーー

だって、一番幸せな、想いが通じあって一緒にいることを誓い合うシーンだったからだ。

『なんでもないのよ。ごめんなさい』と母は笑ってごまかそうとしたけれど、その後なんとか最後まで読んでくれたけれど。
僕は彼女の膝の上で絵本をみるふりをしながら彼女をそっと盗み見た。
黒いまつ毛が涙に濡れて震えていた。

一体何を思っていたのか、もう知る由もない。

もう、彼女はこの世にいないからだ。

じっと黙っている僕を心配してか、鈴木はまた絵本をとって『買ってやろうか?』と言った。

「いらない。別に絵本が欲しいわけじゃない」
その手からまた絵本をとりかえして、棚に戻す。
「ただ、久しぶりに思い出しただけだ」
「そっか……」

鈴木もしばらく黙っていた。
二人で何も言わず本屋を出る。外は明るくて眩しい陽射しで満ちていた。

「薪、俺、腹減ったー!肉食べようぜ」
「ええ……鈴木はいつも肉だな……」
げんなりと僕がこたえると、タンパク質は大事!というのでタンパク質なら魚でも大豆でもいいだろう、と返した僕に不満の声をあげる
「薪も肉食べて背を伸ばさないとな!」
「だから!僕の背は肉を食べないから伸びないわけじゃない!ってかなんでお前そんな偉そうなんだ!」

あはは、と笑う鈴木はまるで陽射しのようだった。
大きな手が僕の髪をくしゃくしゃにする。
いつまでも触れていて欲しいような、すぐにでも離してほしいような、なんとも言えない気持ちだった。

いまだにあの感触を憶えている。

そして母が泣いた理由が、今ならすこしわかる。

彼女はとても優しい人だった。辛いこともすべて包み込むことができるような人だった。
きっとなぜかうまくいかなかったもの、無くしてしまったもの、もうどうしても取り返しがつかないものーーーそんなものをいろいろ抱えていて、あのうさぎの眩しいばかりの純粋な願いにそんな色々なものを切なく思い出してしまったのだろう。

どんなに願っても祈っても、うまくいかないことが人生にはある。

だからこそ純粋な願いは、美しく眩く尊く、そして切ないものだ。


僕にとっての青木の願いもそうであるように。






鈴木。

お前がまだ生きていたら、僕たちはどうなっていただろう?

第九では僕のサポート役に徹していてくれていたけれど、同期でキャリア組だったしいつか全く違う部署に異動になったかもしれない。

お前は万人に人好きのする男だったから、そのうち僕よりも出世したかもしれないな。
下手をすると僕の上官になったりしたのかな。

あの日、鈴木がくれた『ずっと一緒にいてやれる』っていう約束。

まだお前は憶えていたかな。

それも今となってはわからないけれど。



鈴木、僕はーー

例え、出世争いで多少友情がギクシャクしたとしても。

お前が誰かの夫になっても。

父親になっても。

その子供が結婚してたくさんの孫ができても。




たとえ僕よりも大事な人が何十人できたとしても。


それでも。



いつまでもいつまでも、ずっとお前と一緒にいたかったんだ。



それが僕の願いだったんだよ。








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コメント

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Re: 泣いてます…( ;∀;)

>BON子さん
泣いてる……。ありがとうございます。

>なんかなんかもう…鈴木さんの薪さんの取り扱いが…優しい…そして鈴木さんらしい…ホレる…
これは薪さんも私も惚れますよ。←すっこんでて

わたしも惚れる……(笑)
鈴木さんの薪さんの取り扱い、素晴らしいですよねえ。
唯一ダメなのが雪……ゴホゴホ。


>でも、そんな薪さんが今、青木を見ているんだな…てとこまでがさり気なく書かれていて感動しました!
ちょっとだけ、眩しすぎる青木くんの願いも知っているんだよ的に盛り込んでみました(^^;)

おつきあいありがとうございました〜!

Re: 願い

>きこさん
>余分なものは何も無く、たんたんと、そこにある。
これが、切々と胸に迫ります。
にゃんたろーさん、素敵な鈴木さんを、お話を、ありがとうです。

いえいえとんでもないです〜楽しんで?いただければ嬉しいです

>だけど、薪さん、どうぞ、あなたの人生を生ききって!
あなたは、ひとりじゃない。
喪失の痛みを分かち合い、生きる希望となる人がいる。

そうですね!
これからはもっと欲張りに、人生を生ききってほしいものです!!
せっかく鈴木さんが守ってくれた命だもの。
たくさんの人が薪さんの幸せを祈っているはずです。

Re: 薪しゃん…( ;∀;)

>eriemamaさん
ありがとうございます。
いやなんかもう、薪さんって鈴木さんに対してはとってもいじらしいですよね……?
でもホントもっと欲張ってほしいですねえ。
頑張れ青木ですよ!

>あ、最後の王子のカットも…これ視線の先には薪さんですよね?ほんと優しい顔するなぁ…
ジェネシスでも、最近のご登場シーンでもいつもめっちゃ優しい慈しむような顔してますよねえ。
これはいわゆる薪さんの脳内映像の鈴木さんです!髪をくしゃくしゃってしたあとに、「ほら、薪行くぞ」的な微笑み。
ああ鈴木さんなんで死んじゃったの……。

泣いてます…( ;∀;)

なんかなんかもう…鈴木さんの薪さんの取り扱いが…優しい…そして鈴木さんらしい…ホレる…
これは薪さんも私も惚れますよ。←すっこんでて

薪さんのささやかだけど、大切な願い…叶わなかった…

でも、そんな薪さんが今、青木を見ているんだな…てとこまでがさり気なく書かれていて感動しました!

にゃんたろーさん、素敵ですー!

願い

余分なものは何も無く、たんたんと、そこにある。
これが、切々と胸に迫ります。
にゃんたろーさん、素敵な鈴木さんを、お話を、ありがとうです。

だけど、薪さん、どうぞ、あなたの人生を生ききって!
あなたは、ひとりじゃない。
喪失の痛みを分かち合い、生きる希望となる人がいる。
死んでしまうのは、共にきっちり生きた後ですよ。
と、言いたいです。

薪しゃん…( ;∀;)

切なくいじらしい薪さんの鈴木さんへの想いにもう、胸いっぱいになるお話ですね…( ;∀;)
ラスト数行の薪さんのモノローグは本当にそうだったんじゃないかと思います。なんてささやかな願い…。
薪しゃん、これからはお願いだからもっと欲張ってね…?( ;∀;)

素敵なお話、ありがとうございました。あ、最後の王子のカットも…これ視線の先には薪さんですよね?ほんと優しい顔するなぁ…ありがとうございました(o^^o)

Re: ………( ꒪⌓꒪)…………

>ゆけさん(まとめて)
ぶはっ!!ゆけさんおもしろすぎる!
いやいやわかりますよ!うん、大丈夫ですよ〜!

最後ね、ちょっと薪さん哀しいですからね……。
だから青木くんには願うだけじゃなくて行動をしてほしいとおもうにゃんたろーだった!
願うだけでは、薪さんは傷が大きすぎて動けないと思うの。

>でもわかります!眩しい…鈴木の優しさは……
鈴木がいた薪さんに救いがありすぎて、それを失ったことは残酷としか言いようがないんですが、それでも!
それでも……鈴木と出会わなかった薪さんよりかはずっとずっと幸せだと思うのです……。
うんうん。そうですよ。それは間違いなく。
薪さんもそれはわかっているような気がします!「だからこそ今」だし!


>はー……。
またにゃんたろーさんにやられてしまいました……。
うひひ。
やったー。ありがとうございます!

あぁ…っ!;;;;

すてきなとおっしゃっているかたがいらっしゃいました…;;;;;
す…すみません…;; すてきなです。すてきなお話です;;
あぁもう台無しだ…;;; ごめんなさい…さいあく…

………( ꒪⌓꒪)…………

………う…うぇ………うわぁ〜〜〜ん!(泣)

ssすすすすす鈴木〜〜〜〜(号泣)

もう、速攻っ気づいてるじゃないですかぁ〜〜〜(涙)
はぅ…うぅ……
やっぱムリだぁ〜〜〜 ←撃沈

でもわかります!眩しい…鈴木の優しさは……
鈴木がいた薪さんに救いがありすぎて、それを失ったことは残酷としか言いようがないんですが、それでも!
それでも……鈴木と出会わなかった薪さんよりかはずっとずっと幸せだと思うのです……。

はー……。
またにゃんたろーさんにやられてしまいました……。
感想が意味不明……。薪さんの記憶……わーーん。
すてきなというと語弊があるかもしれませんが、とっても揺さぶられるお話で、楽しみがまた増えました。くーーー。

美波ちゃんだったかーー;;;;…orz

Re: 泣いた…(;ω;)

>なみたろうさん
ふわー!ありがとうございます。なみさんの涙ゲットだぜ〜!←ポケモン?

>やっぱり薪さんの言葉は鈴木さんの思い出由来のことだったんですね…ほんとににゃん先生うまいなぁ~!
しかし最後の独白に泣かされました。

そうなんですよ。
鈴木さんと過ごしたあれこれは、必ず薪さんの中に息づいていると思うんですよ。

最近のデータ消失のお話で、鈴木さんも薪さんも、これからお互いに道が少しずつ違っていったり、(距離的に)離れたり、他に大事な人(妻とか)ができたりするんだろうなと、それを少し躊躇したり寂しくおもったりしていたような雰囲気があって、でも薪さんはそれでも鈴木さんと繋がっていたかったんだろうなと……
鈴木さんの遺体にすがって2人がかりで引き剥がされる薪さん(こちらは本編)に、その想いの強さを感じていたのです。
あそこが「100万回生きたねこ」のラストと重なってて、薪さんと離れたくないと泣く青木くんが「しろいうさぎとくろいうさぎ」と重なっていたので、こんなお話になりました。

Re: 失礼します[庵]_;)。

>粟田さん
ありがとうございます!

>琴海ママが泣いちゃったのを気づかれないようにしているエピと言い
にゃん様はもう清水先生!?と思っちゃいました。

そそそそそんな!恐れ多いです!
でも楽しんで?いただけたならよかったです〜〜!!

私もうさぎの話を初めて読んだ時、泣いちゃったんですよね〜。
泣くような話じゃないはずなのに。
あの純粋さは失ってしまったものが多い大人には眩しいっす……。

泣いた…(;ω;)

どんなに願っても叶わないこと、あるよね薪しゃん。うん、あるよね。
(;ω;)ドバーッ

やっぱり薪さんの言葉は鈴木さんの思い出由来のことだったんですね…ほんとににゃん先生うまいなぁ~!
しかし最後の独白に泣かされました。
いや、うまいなぁ~( ;∀;)

失礼します[庵]_;)。

>どんなに願っても祈っても、うまくいかないことが人生にはある。
だからこそ純粋な願いは、美しく眩く尊く、そして切ないものだ。

そうですね~(/_;)✨
にゃん様もう絵本出して欲しいです~。

琴海ママが泣いちゃったのを気づかれないようにしているエピと言い
にゃん様はもう清水先生!?と思っちゃいました。
素敵なお話をありがとうございます✨

プロフィール

ねこじゃらしにゃんたろー

Author:ねこじゃらしにゃんたろー
こんにちは
にゃんたろーです!

清水玲子さんの「秘密」についてのレビューを書き散らかします。
ネタバレばかりです。要注意です。

拍手のお礼コメントまとめはコチラです

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